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第一章.そもそもディベートって?

 「ディベート」ときくと、なんだか難しい、堅苦かたくるしい響きがするかもしれません。確かにあまり身近な言葉ではありませんが、一度ルールを理解してしまえば、そう堅苦しいものでもないということがわかるはずです。

1-1 『ディベートを25字以内でざっくりと説明せよ。』

答:

  (23字)

 あるテーマ、たとえば「日本は救急車の利用を有料化するべきか。」というテーマを決めたとします。有料、つまりお金がかかるようになると、たいていの人は、使うときにちょっとなやむようになりますよね。

 そこで、二手、つまり賛成チームと反対チームに分かれて、「軽々かるがるしく使う人がいて救急車が足りていない。そのせいで重症の人が命を落としている。使う人を減らせれば、そうした命が助かる。」というようなメリット、 あるいは、「そんなことしたらお金をあまり持っていない人が遠慮えんりょしてしまう。命がお金に左右されてはいけない。」というようなデメリットのスピーチを行い、それらに対して、お互いに「いや、それは違う」と反論はんろんをしていきます。

 最終的に、第三者(審判)にどちらの主張が上回っているかを判定してもらい、より多くの審判から票を得られた方が勝ちとなります。

補足:『ディベート』の定義

 この「ディベート」という方法は、大真面目な場面では裁判や議会、会社員の研修けんしゅうなどに使われていますが、中高生の教育に使うこともできます。そのようなディベートを特に「教室ディベート」と呼びます。この冊子において、ディベートは教室ディベートのことを指すものと考えてくださいね。

 特定のテーマについて、いろいろと調べたり、考えたり、話し合ったり、議論をする中で、「調べる力」「考える力」「聴く力」「質問する力」「話す力」をきたえることができます。

 もちろん、こうした個別の能力は、理科や国語、数学などの授業の中でも伸ばすことができますが、ディベートの活動に取り組むことにより、一通りの技術を、ゲーム感覚で楽しみながら伸ばしていくことができます。

1-2 ディベートルール ○×クイズ

 ここで、「それじゃあ、ディベートってどんなゲームなの?」という人に向けて、○×クイズをご用意しました。ぜひ挑戦してみてください。

第一問.対戦相手をだまらせたら、その時点で勝敗が決まる。
第二問.引き分けがないため、決着がつくまで試合が続く。
第三問.賛成側につくか反対側につくかを選ぶことはできない。
第四問.才能さえあれば、試合の準備などしなくてもたいてい勝てる。
第五問.スピーチには制限時間があり、重要なことをしゃべっていても時間が終わったら切り上げなければならない。
1-3 クイズの解答
  1. 第一問.× 対戦相手を黙らせたら、その時点で勝敗が決まる。

     よくある勘違かんちがとして、「ディベートは相手を言い負かせるものだ」というものがありますが、これは大間違いです。 ディベートは第三者(審判)を説得する競技なので、いくら対戦相手が黙ってしまっても、自分たちの方が上手うわてであると審判を納得させられないと、試合で勝つことはできません。 議論の内容によっては敗戦することもありえます。
     また、強引に相手を言い伏せるようなスピーチをすると、減点や反則負けになることもあります。
    (巻末用語集参照:パブリックスピーキング,マナー点)

  2. 第二問.× 引き分けがないため、決着がつくまで試合が続く。

     引き分けはありませんが、スピーチの回数はルールで決まっているので、五分五分の議論でも試合が引き伸ばされることはありません。
     賛成側・反対側のどちらの言うこと(主張)も同じくらい評価できるときや、逆にどちらもまったく評価できないとき、ドロー否定とい うルールにより、反対側が勝利となります。

補足:ドロー否定ひてい

「メリット」「デメリット」のどちらも同じくらい評価できる場合、「特別大きな利点があるというわけでもないのなら、とりあえずこのままにしておこう」という判断になります。そのため、「テーマの内容を実行しない派」、つまり反対側(否定側といいます)の勝利となります。

  1. 第三問. 賛成側につくか反対側につくかを選ぶことはできない。

     基本的に、賛成側につくか、反対側につくかを選ぶことはできません。ディベートの目的として、「ものごとをいくつかの違った視点から見る練習をする」ということがあります。 そのためには、賛成側からの見方と反対側からの見方のどちらも理解し、その両方の立場を経験することが重要です。

  2. 第四問.× 才能さえあれば、試合の準備などしなくてもたいてい勝てる。

     「スピーチが得意な人、頭の回転が速い人なら勝てるんじゃないの?」と思うかもしれませんが、そうとは限りません。
     ディベートの試合では、相手の出方を予想したうえで、作戦をり、適切な証拠しょうこ資料を準備しておくことが重要です。そのためには時間をかけてしっかりと準備をする必要があり、準備なしに試合で勝つことは難しいといえます。このことを表現した「勝敗の八割は準備で決まる」という格言もあります。

  3. 第五問. スピーチには制限時間があり、重要なことをしゃべっていても時間が終わったら切り上げなければならない。

     パート(後で説明します)ごとに制限時間が異なります。

第二章.試合の流れと役割分担

 ディベートの試合は、大きく分けて「主張」「反論」「比較ひかく」の順番で進んでいきます。この章では、具体的にどのように試合を行っていくのか、どのようにチームで役割分担するのかを解説します。

補足:用語について

この章以降、一般的に使われているディベート用語を使って解説します。

用語意味
論題ろんだい議論のテーマのこと
肯定こうてい論題の実行に賛成する側のこと
否定ひてい論題の実行に反対する側のこと
反駁はんばく相手の主張に対して反論を行うこと
比較ひかく自分たち側の主張が、相手側の主張と比べて、どんな点で、どれだけ勝っているかをまとめ、説明すること。
プランを導入どうにゅうする論題となっている内容を実行すること
メリットプランを導入することで起きる良いこと
デメリットプランを導入することで起きる悪いこと

補足:論題について

 大会では、「~をした方が良いか、しない方が良いか」という論題が発表されます。
 細かい話をすると、「政策論題せいさくろんだい」という種類の論題にあたり、「(国は)~をするべきである。是か非か」という、特定の政策を導入することの是非を議論するものです。
 ほかに、「朝食に適しているのは米かパンか」というような「価値論題」、「朝食を抜くのは健康に悪いのか」というような「事実論題」という種類の論題もありますが、試合として成立させるのが難しいため、教室ディベートではあまり扱われません。

2-1 試合の大まかな流れ
肯定側
否定側
  1. こんなメリットがある
  2. メリットはこうして起こる
  3. ~なので良いことだ
メリットの説明
《肯定側立論》
  • ~だからです
  • ~です
  • ~くらいです
質問
《否定側質疑》
  • なんで?
  • どうやって?
  • どのくらい?
デメリットの説明
《否定側立論》
  1. こんなデメリットがある
  2. デメリットはこうして起こる
  3. ~なので悪いことだ
  • なんで?
  • どうやって?
  • どのくらい?
質問
《肯定側質疑》
  • ~だからです
  • ~です
  • ~くらいです
反対チームからの攻撃
《否定側第一反駁》
それは違う!なぜなら~
それは違う!なぜなら~
賛成チームからの攻撃
&反撃
《肯定側第一反駁》
反対チームからの反撃
&まとめ
《否定側第二反駁》
それは違う!なぜなら~
○○なところで□□なので反対側が勝っている
それは違う!なぜなら~
××なところで△△なので賛成側が勝っている
賛成チームからの反撃
&まとめ
《肯定側第二反駁》
(講評・判定)
2-2 チームの構成

 チームでの役割分担(パート)は以下の通りです。立論と応答は同じ人が担当し、四人でチームを組みます。

 各スピーチの間には、1分~2分の準備時間が用意されています。

パート名時間
(中学/高校)
説明
立論4分/6分肯定側・否定側のそれぞれの核となる主張を行います。「どんなにすばらしいメリットがどうして起こるのか」「どんなにおそろしいデメリットがどうして起こるのか」ということを、順序立てて丁寧にスピーチします。
質疑2分/3分相手の立論に対して、確認しておきたいところやあいまいだったところ、わからなかったところを質問します。
応答相手の質問に対して、回答を行います。
第一反駁3分/4分相手の立論に対して反論を行います。また、相手の反論に対してさらに反論を行います。
(このように「言い返す」ことを再反駁さいはんばくといいます)
第二反駁3分/4分相手に再反駁をします。また、この時点までの流れを踏まえて、総合的にどちらの主張がどうして上回っているといえるのかをまとめます。
(これを比較といいます)
2-3 反論のポイント

 肯定側、否定側の各サイドの主張は、次の流れになっています。

  1. 現状分析:
     今はどんな状況か
  2. 発生過程:
     プランの導入後、どんな風に良く/悪く変わっていくのか
  3. 重要性・深刻性:
     なぜ良いといえるのか/なぜ悪いといえるのか

 そのため、肯定側への反論のポイントは以下のようになります。

段階反論のポイント
今の状況
  • すでにメリットは発生している(今でも問題なし)
どう良く変わっていくか
  • プランを導入しなくてもメリットが発生する
  • プランを導入してもメリットは発生しない
なぜ良いといえるのか
  • 実はそんなに良いことではない
  • 良いことではなくむしろ悪いことである

 否定側への反論のポイントは以下のようになります。

段階反論のポイント
今の状況
  • すでにデメリットは発生している(今でも問題あり)
どう悪く変わっていくか
  • プランを導入しなくてもデメリットが発生する
  • プランを導入してもデメリットは発生しない
なぜ悪いといえるのか
  • 実はそんなに悪いことではない
  • 悪いことではなくむしろ良いことである

第三章.大会・交流会

 一番のビッグイベントは毎年8月上旬に開催されるディベート甲子園です。その他、オフシーズンの間にも、各団体が交流会を開催しています。

3-1 一大ビッグイベント、ディベート甲子園

 正式には、「全国教室ディベート連盟・読売新聞社主催 全国中学高校ディベート選手権」。
 毎年8月、東京の大会会場にて三日間にかけて開催される、日本で最大の中高生日本語ディベート大会です。全国から集った強豪校、中学校24チーム、高校32チームが、半年かけて練り上げてきた作戦を展開し、熱い議論を繰り広げます。 

    過去のディベート甲子園の論題の例(中学):
  • 「日本は捕鯨ほげいを禁止すべきである。是か非か」 
    ※「捕鯨」はクジラを捕まえることです
  • 「日本は飲食店にドギーバッグの常備を義務づけるべきである。是か非か」
  • 「日本は救急車の利用を有料化すべきである。是か非か」
    過去のディベート甲子園の論題の例(高校):
  • 「日本は外国人労働者の受け入れを拡大すべきである。是か非か」
  • 「日本は首相公選制を導入すべきである。是か非か」
  • 「日本は死刑制度を廃止すべきである。是か非か」
3-2 年間スケジュール

 ディベート甲子園のオフシーズンを含めた、年間の活動スケジュールです。

時期大会
ディベート甲子園
シーズン
2月下旬ディベート甲子園の論題発表
3月上旬地区支部主催「新論題ミニゲーム講座」
3月下旬春期地区大会
7月夏季地区大会 兼 ディベート甲子園地区予選
8月ディベート甲子園
オフシーズン11月地区支部主催「秋季ディベート交流会」
12月県立千種ちぐさ高校討論部主催「千種杯ちぐさはい
1月LLGディベート同好会主催「LLGオープンディベート大会」

 地区支部やLLGディベート同好会が開催している交流会では、ランダムに振り分けられた参加者が、その場のチームで即興そっきょうの議論を作り上げる「即興ディベート」というディベートをします。 上級者にとっては、試合の準備にかけられる時間が少ない分、より試合における自分の実力を試せるということ、初心者にとっては、夏予選のような大会と違って緊張感があまりなく、気軽に参加できる大会であるというところが、これらの交流会の特徴です。また、普段はあまり接することのない他校チームのメンバーや、ジャッジと一緒にディベートをする貴重な機会でもあります。

 他に、東海地区の強豪校、県立千種高校討論部が開催する「千種杯」という大会もあります。論題は約2か月前に発表され、綿密めんみつな準備をしてきた各チームが議論を繰り広げます。

第四章.ディベート用語集

用語集簡易版

 この冊子に登場したディベート用語をまとめました。その他の用語については、第二巻をご参照ください。

用語意味
論題ろんだい議論のテーマのこと
プラン論題となっている内容のこと
プランを導入どうにゅうする論題となっている内容を実行すること
肯定こうてい論題の実行に賛成する側のこと
否定ひてい論題の実行に反対する側のこと
メリットプランから生じる良いこと
デメリットプランから生じる悪いこと
現状分析プランを導入する前の世界を説明すること
発生過程プランがどのようにメリット・デメリットにつながるのかの説明
重要性メリットがどうして良いことなのか、その価値・影響を説明するもの
深刻性デメリットがどうして悪いことなのか、その価値・影響を説明するもの
反駁はんばく相手の主張に対して反論を行うこと
比較ひかく自分たち側の主張が、相手側の主張と比べて、どんな点で、どれだけ勝っているかをまとめ、説明すること。
パブリックスピーキング公共の場での議論にふさわしい、正しい言葉づかいでスピーチをすること
マナー点試合中でのマナーが悪いと減点される項目
ドロー否定メリットとデメリットが同程度評価されるとき、「とりあえず現状を維持しよう」ということで否定側が勝ちになるというルール
準備時間各スピーチの間に用意されている1分~2分の時間。資料の準備やチーム内での相談、相手への資料請求などを行うことができる
証拠資料統計データ・ニュース記事・専門家の意見などを、根拠として引用したもの。英語で「エビデンス」と呼ぶこともある。

補足:マナー点の減点

 「対戦相手チームのスピーチ中にしゃべっている」「言葉づかいがひどい」「準備時間中の相談の声が大きすぎる」など、試合中での態度が特に悪いとき以外は、減点されることはまずありません。